読書感想『絵金、闇を塗る』
幕末に実在した土佐の絵師、絵金を中心とした連作短編集。
この本で絵金という絵師の存在を初めて知りました。勉強になりました…。
読んでいて感じたのはこの本は妖怪小説、怪奇小説ではないんだけど、妖しい雰囲気が漂っていて不思議な感じだった。
一冊通して読むと話の中心は確かに絵金なんだけど、物語は絵金に関わった人々の視点から描かれていて、絵金本人の視点の話は無い。
人の目を通して彼の才能、天才的な技量、絵に対する情熱などはひしひし伝わってくるんだけど絵金その人のことはよくわからないまま進んでいった。掴みどころが無く、どんな人物なのかわからなかった。
絵金に関わった人物は「噛みつかれる」、絵金の絵は見た人間を「目覚めさせる」とあり、絵金の絵を見た作中の登場人物たちは何かしら影響を受けてしまう。それが異能のように見えて、絵金という人物がよくわからないし絵の描写から感じられる妖しい雰囲気も相まって、なんだか絵金が得体のしれない存在のよう感じられた。
そういう雰囲気がまるで伝奇小説のように思えてしまった。
同じ作者さんの『人魚ノ肉』のように、人魚の血肉というある種のファンタジー要素があるわけでもないのにそう感じたのが面白い…というか読んでいて印象に残りました。
絵金の門人に武市半平太がいた…という史実も踏まえて、土佐勤王党と絵金を絡めた話もあった。
絵金の絵の狂気を武市半平太が利用しようとしていたんだけど、この結び付け方が面白いな~と読んでいて思いました。