インドア日記

ひきこもり系オタクのアウトプット置き場。アニメ、ゲーム、読書感想など。思いついたことを書いたりしています。

感想『新源氏物語 霧ふかき宇治の恋』(田辺聖子) ★★★★★ 宇治十帖編も読み終えました。

 

 田辺聖子訳の源氏物語、宇治十帖編も読み終えました。

 

 源氏や源氏の周囲の人も亡くなって次世代の話になります。

 主人公は源氏の息子、薫です。

 源氏が主人公の時は本を投げ飛ばしたくなるぐらいムカついていたのですが、薫のときはそんなに…ではありませんでした。読んでいるうちにやっぱり腹が立ってきました。じわじわくるパターンでした。

 やっぱり前回同様、心のツッコミを吐き出した感想になります。(個人的なツッコミは色つきにしてあります)

 

 

 

新源氏物語 霧ふかき宇治の恋(上) (新潮文庫)

新源氏物語 霧ふかき宇治の恋(上) (新潮文庫)

 

 

・主人公は源氏の息子の薫。実は女三宮と柏木との間にできた不義の子。

 自分の本当の親が違うということを薄々わかっており(後にきちんと説明されて知る)、その出生のせいかあまり女性にたいして興味が持てず、自信が無く、出家を早くしたいという……源氏とは違う因果、こじらせ方をしている。慎重すぎてタイミングを逃しまくってる。名前の由来は体からいい香りがするから。

・源氏の子、明石の中宮を母に持つ匂宮は薫の友人で薫に対抗心を燃やしている。薫が良い香りしているから着物に香を焚いている。名前の由来もそれ。

 薫とは違い、女の人に目が無い好色家。身分のせいで動きずらいのをわずわらしがっている。しかしのちにさらっと書いてあったのだが、飽きた?女性は姉の女房にしているらしい。

 源氏は好きになると押せるときは押して自分のモノにし、そして一度手を付けた女の人はたとえブスでも最後まで面倒みるというプレイボーイっぷりだったので、源氏を二で割ったような薫と匂宮はデスノートのニアとメロみたいな関係性だな…と思った。

 あいつはあいつですごかったんだと少しだけ上がる源氏の株。

 しかし「二人なら源氏を超える!」という展開にはならないのだ…。

・薫は俗聖と呼ばれている八の宮の元で、大君と中の君の姉妹を盗み見て、姉の大君に恋をする。

・八の宮亡き後、妹の中の君の将来を案じた大君は薫に中の君と結婚してほしいと考えていたが、それを知っていて大君一筋の薫は匂宮を中の君に近づけさせ、二人は結婚。最終的に大君は心労がたたって病死する。

・ところで薫は強引に大君の寝ているところに忍び入り、それを察知した大君が隠れ、妹の中の君と薫が二人きりになる場面がある。その時薫は理性を発揮しぐっとこらえてる。

 源氏だったら絶対襲っていたんじゃないかな?という場面で我慢をしていた薫に「おお~!」と思った。その時は女性を尊重しているのか…!と感動したのだけど…。

・大君自身も薫に惚れていたんだけど「結婚して嫌な目に合うなら今のままがいい…」と思っていた。…若さゆえの潔癖さを感じてしまった。気持ちはわからんでもない。

・大君を失った薫は「やっぱり大君から勧められたように中の君と結婚しておけばよかったかな~~」と後悔をする。自分で蒔いた種じゃん。今更遅すぎるって。

 しかも匂宮が外出している時を狙って中の君の元に行くなどモーションをかける。中の君もしつこく思うほど。女々しいなあ。

・匂宮は夕霧の娘、六の君と結婚させられる。最初は政略結婚嫌がっていたけれど、六の君も可愛く思う匂宮。匂宮は薫が中の君の元に通っているのを知って嫉妬。中の君をねちねち責める。中の君は自分から誘っているわけでもなく薫が勝手にやってきているのに理不尽。しかも匂宮、完全に自分の事を棚に上げとるがな。

 

 

新源氏物語 霧ふかき宇治の恋(下) (新潮文庫)

新源氏物語 霧ふかき宇治の恋(下) (新潮文庫)

 

 

・宇治の姉妹の異母妹、浮舟が登場する。

 この浮舟。自己決定をしない、終盤まで流されるままのお姫様。

・詳細は省くが、浮舟を匿っていた中の君は簡単にいうと薫がしつこくて、浮舟の情報を漏らす。そのとき形代の話をしている。形代は本人の代わりに穢れをとって川に流すもの。実はこれ伏線で、のちのちびっくりした。

・匂宮も家にいた見知らぬ浮舟を偶然見てしまい、気になってしまう。

・その後色々あって薫は浮舟を探し宇治に強引に連れて行って囲う。浮舟はされるがままという描写。流されている。

・匂宮は薫の行動を知って、浮舟を見つけ出す。匂いで薫に成りすまして強引に屋敷に入り、浮舟を襲う。このための設定だったのか!と膝を叩く。

 宇治川の隠れ家に連れて行かれた浮舟。この時もされるがままの描写。やっぱり流されている。二人は情熱的に燃え上がる。

・薫は薫で、匂宮は匂宮で、浮舟を宇治から自分の元へ呼ぶために画策する。薫は匂宮と浮舟の関係を知り、屋敷の警護を増やし匂宮絶対入れないガードをする。そして浮舟に恨みの手紙を送る。

・浮舟は薫と匂宮のどちらも選べない。世間の目、どちらを選んでも身を滅ぼしてしまう。悩んだ彼女は宇治川に身を投げる。

 私的には薫から送られてきた手紙が彼女にとどめを刺した気がする。源氏が女三宮にしたことと同じことしてないか?

・薫と匂宮は浮舟の死を嘆き悲しむ。

 ぶっちゃけお前たち本当に浮舟本人のこと好きだったわけじゃないだろ…とツッコミを入れたい。

 薫は大君の身代わりとして他の男に取られるのも嫌で手元に置いておきたいだけ…という浮舟本人を見ていないもので、そして匂宮は可愛い子に手を出して燃え上がり恋にウキウキになっているだけ…としか思えなかった。

・浮舟は横川の僧都に助けられる。妹尼は亡き娘の代わりに浮舟の世話をする。亡き娘の夫の中将が浮舟を知って関心を寄せるけど、浮舟は恋愛に嫌気が差しているので逃げ回る。

・浮舟は横川の僧都に頼んで出家させてもらう。自分の意志で決め、俗世と離れられたことに心が晴れる浮舟。そのときの周りが「そんな。若いのに。もったいない」という反応。いや…本人が幸せならいいじゃん…と思う。でも周りがアレコレ言ってくるのは今もたいして変わらないんだな…。

 中将は尼姿の浮舟を見てもあきらめず、そのうち自分のものにしようと思っていたりする。え…出家しても逃げられないの…? こわ…。

・浮舟が生きていることを僧都から知った薫は、浮舟の弟、小君に手紙を持たせ使いにやる。浮舟は周りに促されても弟に会わず手紙の返事もやらずに、物語は終わる。え…これで終わり…? 

 浮舟は出家したことで源氏編の女三宮のように精神が成長したように感じた。

 薫は源氏が自分の母親・女三宮にしたことと同じようなことをしてしまっているように感じた。因果だなあ…。

 早く出家したくて女の人を煩わしく思っていたような薫だったのに、恋に溺れて初めに書かれていた出家欲が見られなくなっていく。そしてその代わりに薫が求めた恋の身代わりの浮舟が、川に流れた挙句薫がしたがっていた出家する…って皮肉というか対比が効いているというか…。

 

 

 

 長い…。源氏編よりも短いはずなのに長くなってしまった…。

 

 物語全体としてみれば、源氏編よりもよく練られた物語だと感じました。

 宇治という舞台。薫と匂宮の関係性。大君→中の君→浮舟…という大君の身代わりの変遷。形代は身代わりとして穢れを川に流がされ、意志が無く流されるままの浮舟は大君の身代わりとして川に流される。

 散りばめられた伏線に、こんな作品が1000年前にあったのか…すごいな…と月並みな表現ですが感動しました。

 私としては宇治十帖編の方が好きです。

 やっぱり浮舟が気の毒だと思ったからかもしれません。

 源氏主人公編では、教養もあり器量が良く趣味がいい、そして意思を持った強い女性が沢山出てきました。

 それに比べ、浮舟は意志のない流されるままの弱い女性でした。ぼーとした女性。私もあまり自己主張できない人間なので、ちょっと浮舟には感じ入るところがありました。

 薫か匂宮か選べずということも、どちらかを選んだことで発生する苦痛、苦労…つまり嫌なことから逃げたくて死を選んだんだと捉えることができるし、嫌なことから逃げたいという気持ちはすごく良くわかるんですよね。

 浮舟の母親だって浮舟に幸せになって欲しくて色々動いていたのに、その末路が身投げというのも皮肉だな…と思ってしまいました。

 

 

 浮舟を見て思わずにはいられなかったのは、ちゃんと自分の意志を持たないと、自分で決めないと男に都合のいい存在として振り回されて死んでしまうぞ!…ということ。

(薫も匂宮も殺そうとはしていなかったのですが、結果論的に)

 実際のところ紫式部は彼女を通じて何を伝えたかったのかはわかりませんが、私は読んでいてそう感じてしまいました。

 

 

 

 源氏物語、一度も読んだことのない人は一度でもいいから読んでみたほうが良いと私は思いました。男の人も女の人も。

 すごい色々な感情が湧いてきます。考えさせられるところもあります。

 何より1000年以上前の作品で腹立ってツッコミ入れながら読めるのってすごいなと思いませんか? 私は思いましたよ…。

 今回の田辺聖子訳はすらすらと読みやすかったです。もう一回読み直したら違う発見もあるかもしれません。違う訳を読んでみてもいいかもしれません。

 でもツッコミ入れまくりながら読んでいたので、疲れました…。しばらくはいいかな…。