インドア日記

ひきこもり系オタクのアウトプット置き場。アニメ、ゲーム、読書感想など。思いついたことを書いたりしています。

読書感想『この世の春』★★★★★ 

  読みました。いや~すごい作品でした。 

 

この世の春 上

この世の春 上

 

 

 

この世の春 下

この世の春 下

 

 

 

  舞台は江戸時代。北見藩という架空の藩が舞台で、その現藩主、北見重興が乱心のため主君押込されてしまう。主君押込とは簡単にいうと家臣たちによる強制監禁…座敷牢行きのこと。

 

主君押込 - Wikipedia

 

 そして北見重興の主君押込により、彼に重宝されていた成り上がりの御用人頭・伊東成孝が失脚。乳母がまだ赤ん坊の伊藤の嫡男を抱えて、元作事方組頭・各務数右衛門と娘の多紀のもとに逃げてくる。

 伊藤と関わりの無かった各務数右衛門の元に、どうして乳母は逃げてきたのか。

 各務数右衛門は乳母に近くの寺に行くよう進め、背後にある得体の知れない何かとはもう関わることはないだろうと思った矢先、各務数右衛門の死をきっかけに娘の多紀はその何かに巻き込まれてしまう…。

  というのが物語の冒頭。

 

 読み進めるたびに謎が出て闇が深まり、関わるとやばいことになる感がプンプンと醸し出されて、「どうなるどうなる」とぐいぐい読み進めることができた物語でした。

 

 

 何がすごいかというと「よくこのテーマを時代劇で書こうと思ったな!」ということ。

「どういうこと…」と思いながら読み進めていたので、ネタバレを書くことは極力やめておきます。

 新潮社の商品紹介ページには『サイコ&ミステリー』と書かれていますが全くその通りでした。

 この若い殿様の「乱心」なんですが、現代的知識が無い昔だとやっぱり幽霊や狐憑きといったもののせいにして話を進めてもおかしくないのですが、このお話に出てくるお医者さんの考え方は現代的で、どうして「乱心」が起こったのか、なぜ起こるのか…ということを冷静に突き止めようとします。

 そこだけでもドキドキするほど面白かったのですが、どうして「乱心」が起こったのか…という原因の事件を探ろうとすると、北見藩に纏わる過去のことが関わってきて、知らないところで人がいっぱい死んでいることがわかったり…と、ぶわ~と闇が広がっていきます。

 上巻は時代劇なのにサイコ的な面白さがあって、下巻は事件の追及&解明的なおもしろさがありました。

 

 

 架空の北見藩の歴史、地理、キャラクターの持っている過去などがパズルのようにきれいに組み合わさって物語ができていて、読んでいて「こりゃすごい…」と唸りました。

 

 

 ただこの物語、敵の計画の詰みの一歩前ぐらいから事件が解明されていくので「敵の陰謀を阻止し元に戻りました。めでたしめでたし」とはなっていないんですよね。

 それがキャラクターを想うと「ちょっと、可愛そうじゃないか…?」となりました。

 そのあたりの読後感は、前回読んだ「ぼんくらシリーズ」でも感じたことでした。

 けれど今回は「失ったものは戻ってこないけど闇が晴れて浄化された。この先、辛いことも待っているかもしれないけど、希望がありそう…」という読後感だったので、救いはあったのかな…。

 

 

 あとちょっと残念だったのは、敵の動機。正直「ここまでするか?」と思ってしまった。

 敵を操っていた黒幕の存在もちょっと言及されていましたが、スルーされていました。まあ、そのあたりも掘ったら闇深そうだしヤバイことになりそうだし、仕方ないのかなあ。

 起こった騒動の、藩の歴史等を踏まえたら「実はこういう意図があったのかな」と想像(妄想?)できて自分を納得させることは一応できるのですが、う~んとモヤモヤが募ります。

 

 でも面白かったことには変わりないんですけどね。

 個人的には上巻の雰囲気が最高でした。