インドア日記

ひきこもり系オタクのアウトプット置き場。アニメ、ゲーム、読書感想など。思いついたことを書いたりしています。

映画感想『鑑定士と顔のない依頼人』

鑑定士と顔のない依頼人(字幕版)

 

 新年早々、恐ろしいものを見た………という気持ちになった映画でした。

 

 

 

(1) ネタバレなし感想。

 

 (あらすじ) 美術鑑定士であるヴァージルに、両親の遺品をオークションにかけたいと依頼した女性・クレアは広場恐怖症で長年部屋の外から出ていない女性だった。

 

 最初は姿を見せない依頼人の謎に迫っていくミステリーかなと思っていたのですが、ラブストーリーでした。

 口の悪い言い方をすれば、潔癖症の癇癪じじいと情緒不安定女のラブストーリーです。

 このじじい…もとい、ヴァージルはけっこう良い性格をしておりまして、オークションでビリーという友人(なのかな?)に手伝わせて、気に入った絵画を格安で競り落とす。常に手袋装着の潔癖症。大量の女性の絵画を飾った隠し部屋を持っていますが、リアルの若い女性とは目を合わそうとしない。……という見ていて「う~ん…」と思ってしまう性格の持ち主です。

 このじいさんが引きこもった依頼人クレアに恋をして、段々と変わっていきます。若い機械職人ロバートのアドバイスを聴きながら、クレアを部屋から外へ出そうと世話をしていきます。ヴァージルと関わるうちにクレアもどんどん変わっていき広場恐怖症を克服、ヴァージル自身も、クレアに恋をしていくうちに潔癖症もいつの間にか治っています。

 

 老人が……とはいかなくても、年の離れた若い娘、不遇な状態にある娘に男性が支援をし輝かせるというストーリーは、昔からある定番ものな印象です。あしながおじさんストーリーかな?

 昔からある、人類のロマンなのかな…と思ってしまいました。

 

 ヴァージルがいなくなったふりをして、部屋の外から出たクレアを隠れて覗き見するシーンや、覚悟を決めてヴァージルの前に姿を現したクレアを、ヴァージルが手袋を外して触れるシーンなどは、少しねっとりとした感じに見えました。(オイオイじいさん、潔癖症なのに、いきなり女子に触れるなんてどうした?と思ったりもしました。)

 

 

  紆余曲折在りましたが、ヴァージルとクレアは結ばれ結婚します。

 そんな若い娘が老人に惚れるわけないだろ! 現実的に考えて! 遺産狙いだよ!!

 ……と、文句言いそうになりますが、こちらは見続けていくうちにヴァージルに感情移入してしまっていますので、良かったね…という気持ちです。

 クレアは遺産を競売にかけないことを告げ、ヴァージルは受け入れます。序盤の彼だったら絶対キレていたと思いますが、変わったねじいさんと思わせられました。

 美術品しか愛せない、潔癖症で癇癪持ちのじいさんが、娘と関わっていくうちに恋をし結ばれ、孤独を回復させていく……。

 という都合の良い話で、ありふれた話のような気もするけど、まあ映画だからいいよね。こういう王道な話も好きだよ。作品に流れている背景の雰囲気好きだから、まあ良い映画だったな…。そう思いました。

 

 

 

 

 

(2) ネタバレあり感想。

 

 この映画、感想書くにあたってネタバレしないと書けないので、ここから先はネタバレしていきます。もしまだ見ていなくて、映画を見て「え…?」と口をあんぐり開けたい場合は、ここから先は見ないほうが良いです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな老人の夢物語のような、都合のいい話あるわけねえじゃん!

 

 と現実を叩きつけられるがごとく、隠し部屋のコレクションはクレアと共に消え去ってしまいました。

 実はクレアと恋の相談役ロバート、友人(?)のビリーは結託して、ヴァージルを嵌めようと計画していたのです。それは見事成功しました。

 空っぽになった隠し部屋の中は、黒幕のビリーが書いた絵画と、ロバートの作ったオートマトン、それぞれ二人のメッセージ付きという置き土産が遺されていました。オーバーキルすぎる。

 クレアの屋敷は借り家で、向かいの喫茶店にいる小人症の女性の屋敷であり、その小人症の女性が本当のクレアだったという真実もわかります。

 長年ひきこもっていたおねえちゃんが、あんなにキレイなわけないじゃん、フィクションだからか…と思っていましたが、本当に違った…というオチです。

 

 その後ヴァージルは老人介護施設で、かつての精彩さを欠いたくたびれた老人として余生を過ごす…という、見ているこちらもオーバーキルしてきました。

 

 

 ネットで他の方の感想を読んでなるほどな~と納得したのですが、このストーリー、くるっとひっくり返して、ビリー視点で見ると、ヴァージルにこき使われて絵の才能も認めてもらえなかった彼がやり返したと見たら、割とスカッとする内容です。見ているこちらはヴァージル視点で見ているので彼に肩入れしてしまっていますが、客観的に見るとヴァージル、人が良いとは言えませんし…。

  伏線もけっこう貼られていたみたいです。後から考えてみると、クレア(偽)がいなくなった理由明らかにされてなかったし…。トントン拍子に自分が回復していって不安になったからかな…と勝手に解釈していましたが、おそらく、用事があって出て行ったぐらいなんでしょう。

 

 

 この真実がわかってからの後半、これ以上のインパクト、オチはもうないだろうというのに、その後の流れが丁寧に描写されています。それが逆に怖かった。

 時系列は入り組んでいて、クレアがいなくなり真実がわかる→老人ホームのヴァージルの回想で、クレアがいなくなった後のシーンを映していきました。

 ヴァージルはクレアがいなくなった後、彼女が話していた喫茶店ナイト&デイに行き、もういない彼女を待ちながら一人で食事をする…というシーンで映画は終わります。

 救いがあるとすれば、クレアがビリーやロバートのようにメッセージを残していかなかったことでしょうか。贋作者は自分が作った贋作の中に痕跡を残す(うろおぼえ)とヴァージルが言っていたのですが、彼女は残していませんでした。また、騙しているだけなのにここまで言う?というセリフもあります。

 演技ではなく、ヴァージルのことを本当に愛していたのかもしれません。……わからないけど。

(ナイト&ディから帰ったヴァージルは、老人介護施設ルートに進んだのでしょうから、本当に愛していたとしてもな~と思ってしまいます)

 

 

 潔癖症をこじらせて、誰も信頼せずに、コレクションの美術品に囲まれて孤独に余生を送った方が幸せなのか。

 それとも騙されて美術品を奪われても、激しい愛を知った方が幸せなのか。

 

 

 どっちがいいとは、言えないなあ…。上げて落とされるのも辛い…。

 

 

 真実が明らかにされてからも割と時間があったので、もう一回ぐらい何かあるのか身構えていたんですが、無かった。寂しい感じで終わってしまいました。

  終わった後、ぽかんと口が空いたままになっていました。

 作中に流れる雰囲気や、美術品などの小道具などなど、映像美はすごく好きです。

 しかし伏線探しにもう一回…は、心がきついかも…。