読書感想『卵のふわふわ 八丁堀喰い物草紙・江戸前でもなし』 ★★★★☆

(タイトルのところに、個人的読んで面白かった度を星で表わしてみました) 

　最近時代小説を読み始めるようになり、母からオススメの作者さんを紹介されて、その人の著書を眺めているうちに目に留まった一冊。

　タイトルから「卵のふわふわ…って何ぞ？　どんな話なんだろう？」と気になって、こちらの一冊を読んでみることにした。

卵のふわふわ 八丁堀喰い物草紙・江戸前でもなし (講談社文庫)

　主人公の、のぶは隠密廻りの正一郎の妻で、お姑さんとお舅さんとの仲はいいものの、夫婦間は冷えている。ある日とうとう嫁ぎ先の家から出て離れて暮らすようになり、そこから互いは自分を見つめ直す。二人の距離が徐々に縮まって本当の夫婦になっていくまでのお話だった。

　主人公ののぶはおっとりとしていて可愛らしく、お舅さんとお姑さんも個性的だけどのぶを気に入っていて、嫁姑問題があるのではとびびっていたけど無く、温かく優しい雰囲気で読んでいるこちらはほっとした…。

　しかし旦那の正一郎ののぶへの当たりがきつく「てめ！コノヤロー！」と序盤はイライラさせられることもあった。

　だけど、のぶが家を出て実家に帰ったことで、正一郎が自分を見つめ直し柔らかくなり、のぶ自身のわがままさもわかるようになる。そんな二人がぎこちないながらも距離が縮まっていくのがいじらしく、かわいらしかった。

　最後は、のぶと仲の良い舅の忠右衛門がいなくなったことで離縁がうやむやになり、家を支えるためにのぶが嫁ぎ先に戻るのだけど、忠右衛門がいなくなってしまった…というのが切なかった。のぶと忠右衛門とのやりとりがおもしろかったから、なおさら切ない。

　本のタイトルにもなっている「卵のふわふわ」の他にも、タイトルごとに「淡雪豆腐」「心太」など料理の名前が書かれて、そのタイトルの料理にちなんだ出来事が起きながら、のぶの心情の変化が丁寧に書かれていて、読みやすかった。

　柔らかくて優しい雰囲気の物語だったので、けっこう自分好みでした。もしかしたら続編あるんじゃないかと調べてみたけど無さそうで、ちょっと残念だなあ…。