インドア日記

ひきこもり系オタクのアウトプット置き場。アニメ、ゲーム、読書感想など。思いついたことを書いたりしています。

映画感想『千年女優』

千年女優 [Blu-ray]

 

 前情報一切無く見たんですけど、見終わったら「すごいの見たなあ・・・」という感覚になりました。

 

 ※ラストのネタバレあります

 

 今は引退した大女優・藤原千代子に、立花源也とカメラマンの井田恭二がインタビューをするところから始まって、彼女の女優人生を回顧していくというストーリー。

 立花は藤原千代子のなくした鍵を大切に保管していて、それを彼女に返還する。

 その鍵は、千代子が戦前かくまった思想犯「鍵の君」のもので、千代子は名前もわからない彼に鍵を返すため女優の道に入ったのだった。

 この映画、千代子の話を回想していく・・・というストーリーなのだけど、気がついたら彼女の出演していたであろう作品のガワになっているのが面白い。

「鍵の君」を追いかけるために、満州へ行くという映画の撮影に女優として入っていった・・・かと思えば、千代子さんは戦国時代のお姫様になっていたり、忍者になっていたり、花魁になっていたりする。

 この幻想世界の中にはインタビューしている立花とカメラマンも一緒に入り込んでいるんだけど、立花は千代子さんの熱狂的なファンなので彼女を助ける役になりきったりしている。(カメラマンの方は変わらないし、視聴者目線のツッコミを入れてくれる) 

 転んだ拍子とかに、世界がガラリ変わるので、千代子本人の話なのか彼女が出た作品の話なのか・・・。「どっち??」となるのが不思議な面白さがあった。

 

 

 ごちゃごちゃしているかと思いきや、現実でも幻想世界でもストーリーは「千代子さんが現実でも役でも鍵の君(思い人)を追いかける」というものなので、わかりやすいです。

 

「名前も知らない」という相手。

 長年、初恋の君を追いかけていく際の問題である「あの人の顔を忘れてしまう」や「もう自分はあの人と出会った頃の自分じゃない。若くない」。「いつまで追いかけ続けるのか」という定番もちゃんと盛り込んでありつつも、千代子さんは年を取っても一途に追いかけ続けます。その姿に一視聴者の自分はいつのまにか応援しておりました。

 

 

 幻想世界のなかでも走って追いかけ続けた千代子さんは、結局、鍵の君と再会できずに人生の幕を閉じます。

 

 鳥肌がたったのがラストでした。

 

 戦後、鍵の君を捕まえた官憲の傷の男が、結婚した千代子さんの元に訪れて鍵の君からの手紙を渡します。その手紙の内容を読んで、約束の地に向かいますが、千代子さんはそれでも会えなかった。その後女優を復帰したようですが、すぐに引退します。

 最後で、実は鍵の君は捕まえられ拷問の末亡くなっていたと、昔、傷の男の話を聴いていた立花が思い出して語り、彼女は「ずっと影を追いかけていた」のだとわかります。

 空襲に遭い、蔵の壁に書いてあった千代子さんの絵を見つける遙か前から多分、亡くなっていたんでしょうな。

 じゃあ、彼女の人生は、いない人の影をずっと追いかけ続けた、報われることのなかった人生だったのか。

 死後の世界で彼に会えることで、やっと彼女の願いは叶うのか。

 ・・・・・・と見ているこちら(とインタビュアーの立花)に思わせておいて、『千年女優』のラストは千代子さんのセリフで締めくくられるのです。

 

「・・・だって私、あの人を追いかけている私が好きなんだもん」

 

 切ない、しんみりとしたこちらの感情がこのセリフでコロッと変わりましたね。

 好きでしていたんだったら、十分満足のいく人生だっただろうな・・・と。

 

 

 このラストシーン、黄泉路に旅立つ千代子を表した映像は、彼女が出演した作品と重ねたのもあるんでしょうけど、宇宙船に乗って旅立つという描かれ方をしており、この発想が面白いなあ~と思いました。

 

 

 

 余談ですが、この鍵の君、声は山寺宏一氏なんですけど、顔が描かれていないにもかかわらず、声だけでミステリアスでかっこいいんですわ・・・。すごく印象に残るんですわ。流石ですわ。

 

 以前見た、今敏監督の『パプリカ』のときも思ったんですけど、映像がすごい。すごくよく動くとか綺麗とかそういう意味で「すごい」と言いたいのではなく、映像が見ていて面白いんです。

 しかも『パプリカ』は割と難解な部分もあったんですけど、『千年女優』はわかりやすいストーリーですから、見やすいしオススメです。ジブリを毎年放送するなら、一回ぐらいこの監督の作品を放送したらいいんじゃないかな。もっと作品を知っている人がたくさん増えたらいいんじゃないかな~と思ってしまいました。

 だって、すごいから。